支援団体に「転居を迫られた」という生活保護利用者の悲鳴が届くということは、これらの通知が、その自治体や福祉事務所では全く活かされていないということだ。

 東京都内の自治体で、15年間にわたってケースワーカーおよび査察指導員(ケースワーカーの指導を行う立場・係長相当)として勤務した経験を持ち、この3月に定年退職した後も生活保護問題に関わり続けている社会福祉士の田川英信さんは、

「少なくとも、通知が『届いていない』『読まれていない』ということは、ありえません。福祉事務所までは、必ず届いているはずです。ただ、じっくり読み込んでいるのは係長まで、ということが多いのでは? 係長から、係員である現場のケースワーカーである係員に丁寧に説明しなければ、係員は理解できないままです」(田川さん)

 という。そもそも、今回の2回の厚労省通知は、どういう内容なのだろうか?

●「生活保護の住を守り、向上を」? 真意を読みとりにくい、2回の厚労省通知

 今回の住宅扶助引き下げに関して、厚労省の局長通知が「社会・援護局長」名で、2015年4月14日に発行されている。この局長通知には、住宅扶助上限額の変更とともに、数多くの例外規定が含まれている。例外規定の内容を簡単に要約すると、

「転居によって何らかのダメージが想定される場合には、福祉事務所は転居指導を行う必要はなく、引き下げ前の旧基準の上限額を適用することもできる」

「家賃相場が高く、引き下げ後の新基準どころか旧基準でも劣悪な住居しか見当たらないような地域では、地域の事情をある程度考慮した特別基準を適用することもできる」

 である。そもそも生活保護利用者は、通院・通所などの必要のある傷病者・障害者・高齢者であることが多い。さらに「生活保護の住」は、「築浅」「万全のセキュリティ」「駅近」といった条件からは程遠いことが多い。これらの例外規定に「まったく該当しようがない」という例を見つけることは困難だろう。

 また、例外規定に該当しない世帯に対しても、最長2年間(半年間の延長が認められる場合も)の経過措置が設けられており、その間は引き下げ前の旧基準が適用される。生活保護世帯が「すぐに転居を」「すぐに家賃の減額を」と迫られる根拠は、まったくない。

 続いて5月13日には、厚労省社会・援護局保護課長名で通知が発行されている。この通知では、

「(貸主に家賃引き下げを依頼する場合には)生活保護受給世帯のプライバシーに配慮する必要があることから、 生活保護受給者であることを貸主等に明らかにすることまでを求めるのではなく、一般的な賃貸借契約の範囲内で確認するものであることに留意すること」

 と、家賃引き下げの依頼によって、生活保護利用者の生活を「生活保護バレ」によって脅かさないよう配慮することを求めている。

「でも、どこまで実効性があるんでしょうか? ご本人が『家賃を下げてください』という交渉をするのは、なかなか難しいです。仮に、大家さんのところに福祉事務所から人が来て、あるいは電話があって、『家賃を下げられませんか』と言えば、生活保護だということが、バレるわけです。本当に、厚労省は実態が分かっていないと思います」(田川さん)

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