しかし、ローマ帝国が衰えると、下水道施設の発展は止まってしまう。18世紀後半、産業革命を迎えたヨーロッパには下水道の設備はほとんどなく、仕事を求めて人々が集まった都市の衛生環境は悪化していった。ごみやふん尿、生活排水がそのまま捨てられ、川が汚染された結果、19世紀にはコレラや腸チフスなどの感染症もたびたび流行。数多くの犠牲者がでたことで、人々は下水道の重要性に気づき、ヨーロッパやアメリカ、日本などで少しずつ、近代的な下水道が整備されていく。

隅田川に近い都市部の地下にも、下水道管が走っている

 一口に「下水道」と言っても、そこには下水を輸送する「下水管(下水管路)」、下水を川や海に流しても問題ない水質に浄化する「水再生センター(下水処理場)」などが含まれる。家庭をはじめ、さまざまなところから出る下水は、下水管を通って水再生センターに移動し、そこで最終的な浄化が行われたあとで、川や海に流されていく。

 現在、下水道が整備されていない地域では、各家庭に浄化槽が、団地などの集合住宅ではコミュニティ・プラントと呼ばれる施設が設置されているのが一般的。農村部や漁村部、山間部では、その地域や規模、環境にあった施設(農業集落排水施設など)を整備している。

 もし、この下水道や浄化槽がなかったら、19世紀がそうだったように、汚染された水で体調を崩すことになり、腸チフスや赤痢、これらといった感染症が発生する確率も高くなる。私たちの暮らす環境が清潔に保たれているのは、下水道のおかげなのだ。

(構成 生活・文化編集部)