1カ月後、その後の変化を観察すると、老化細胞注入マウスでは歩行速度の鈍化、持久力、筋力の低下が有意に認められ、老化が進行していることがわかります。また、さらに一定期間追跡すると寿命の短縮が観察されます。

 つまり組織全体の老化の火付け役となるのは散在する少数の老化細胞で、これにより老化は促進されます。さらに同様の試験で老化細胞注入マウスに高脂肪食を長期間与えると、老化速度はさらに早まり、高カロリー食は老化を早めると言えます。

 また、これらの老化細胞を駆逐すれば老化の進行を遅らせることができると予想されます。老化細胞を除去することをセノリシス(senolysis)と呼び、最近の研究で、これにより老化の進行が抑制されることが明らかにされつつあります。

 すべての細胞は、細胞内の種々の成分を分解するリソソームという細胞内小器官を持ちます。細胞は自身の活動・増殖のためにタンパク質・脂質を合成しますが、それと同時に不要となった成分をリソソームで消化・分解します。リソソームはいわば、分解工場として機能しています。

 細胞内では通常、pHが中性付近に維持されるのに対してリソソーム内ではpHが低く、酸性になっています。リソソームには多数の分解酵素が含まれ、その大半はpHが低い環境下で分解活性が発揮されるようになっています。これは何かの拍子にリソソームから分解酵素が細胞質に漏れ出て、中性pH付近で細胞内の必要な成分を勝手に分解してしまうことを防ぐためと考えられています。

 ところが細胞が老化することに伴いリソソーム膜は脆弱となり、リソソームの内容物が漏れ出て細胞質のpHが弱酸性化していきます。老化細胞内が酸性化しても大丈夫かというと、そうではありません。老化が進むにつれてリソソームからの漏出が亢進すると不必要な細胞内分解が進み、やがて老化細胞自身が死に至ります。

 老化細胞は自身を保護するため、pHが下がりすぎないよう工夫をします。細胞内にはアミノ酸のグルタミンをグルタミン酸に変換させるグルタミナーゼという酵素が存在し、アンモニアを発生させます。

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