生活すべてにおいて介助が必要な長女。体も大きくなり、ケアを手伝ってもらっていた両親も年を取ってケアが難しくなってきたなかで、卒業後の居場所がなくなる「18歳の壁」問題にぶち当たっています(写真/加藤夏子撮影)

「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害のある子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出合った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

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 12月5日に「第48回永田町子ども未来会議」が行われ、今回はオブザーバーとして出席させていただきました。この会議は、医療的ケア児の支援を政府と民間の有識者で検討する勉強会です。

 私も11月にあった前回の永田町子ども未来会議で発言の機会をいただきましたが(11月15日配信のコラムで紹介しています)、この会議は全国医療的ケア児者支援協議会が主催し、超党派の国会議員や、こども家庭庁や厚生労働省、文部科学省など関連省庁の官僚や、医療や福祉事業の関係者などが集まり、医療的ケア児に関する施策や制度を検討する場です。

 今回は、関連省庁から補正予算に関する議題や、専門医から胃ろうの注入物品(経腸コネクタ)についての話題提供などとても深い内容の会議でした。その中で私の最大のトピックスは、今後の検討課題として「18歳の壁」という言葉が出てきたことでした。

共働き世帯が増えるなかで

「18歳の壁」とは、障害のある子どもが小児領域から成人領域へ移行する年齢(18歳)に、利用している制度やサービスの根拠法が変わるため、生活に支障が出ることを指します。 

 たとえば、児童福祉法の放課後等デイサービスは18歳以下しか利用できないため、高校や特別支援学校高等部卒業後には、障害者総合支援法に基づいて、新たな事業所との契約が必要になります。

 ただ、18歳以降、常時介護を必要とする障害者が日中過ごす「生活介護事業所」の受け入れはとても少なく、学校を卒業後の日中の居場所や送迎サービス事業者を見つけられないと保護者の就労の機会が奪われることもあります。医療の進歩や共働き世帯の増加にともなって日中の生活介護のニーズが増える中、18歳の壁問題はとても深刻な状況となっているのです。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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長女の卒業後は1日3時間しか働けない