今は“自分に向けた曲”を歌いたいと思っている
最新アルバム『12 hugs (like butterflies)』にも、メンバー自身の価値観や美意識がしっかりと反映されている。「more than words」のヒットにより知名度が上がっている状況だが、“自分たちが好きな音楽、いいと感じる音を鳴らす”という姿勢はそのままだ。
「前回のアルバム『our hope』は意識的に聴きやすいものを作ったつもりだったんですよ。今回はそうではなくて、もともと好きだった音楽に立ち返って、それを今の自分たちで表現した作品なのかなと。前作でポップに振り切った反動というか、ありのままという感じです」(河西)
「サウンド的なテーマは、原点回帰。初期衝動じゃないけど、1st EP『トンネルを抜けたら』(2017年)の頃の自分たちに戻りながら、それを更新した作品になったと思います。個人的にも気に入っていますね」(フクダ)
『12 hugs (like butterflies)』というアルバムの題名には、自分をハグする(=自分を大切にする)という意味が込められているという。作詞・作曲を手がける塩塚は「自分自身も少しずつ“仕事”に対する考え方が変わってきた」と語る。
「これまでは誰かに対して歌っていたり、社会に対してもの申したい!という気持ちで歌詞を書くことが多かったんですけど、今回は自分に向けた曲が中心になっています。他人に“こうだよ”と決められるのではなく、自分で自分をハグするというか。人生観が変わるような出来事があったわけではないんですが、年齢的にも“いい人生を送るには”みたいなことを考えるようになって。人生の端から端まで仕事で埋め尽くして、成果を残すんだというテンションではなくて、もうちょっと自分自身の人生を考えていいのかなと」(塩塚)
2024年4月には、キャリア最大規模となる横浜アリーナ公演(神奈川)も決定。今後の活動ビジョンについて聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「“目標は?”と聞かれるたびに、3人で“うーん”って困っちゃうんですよ(笑)。成功のイメージがないわけではないんだけど、それを言葉にするのも野暮かなって」(塩塚)
「好きなミュージシャンはいるけど、“この人みたいになりたい”と思ったことはなくて。バンドで成功するというより、自分たちで決めた正解に向かって進んでいきたいと思ってます」(河西)
J-POP的なスタイルではなく、洋楽的かつ先鋭的な音楽性を貫きながら、ポピュラリティーを得つつある羊文学。このバンドは、日本のロックバンドのイメージを刷新する可能性を秘めていると思う。
(取材・文/森 朋之)
羊文学(ひつじぶんがく)/Vo.Gt.塩塚モエカ、Ba.河西ゆりか、Dr.フクダヒロアの3人によるオルタナティブロックバンド。2017年から現在の編成で活動し、2020年8月にF.C.L.S.(ソニー・ミュージックレーベルズ)からメジャーデビュー。以降、アニメ「平家物語」オープニングテーマ「光るとき」、テレビアニメ「『呪術廻戦』第2期」エンディングテーマ「more than words」などがヒット。2024年4月には初の横浜アリーナ単独公演「羊文学 LIVE 2024 “III”」の開催も決定している。2023年12月6日(水)にNew Album『12 hugs (like butterflies)』をリリースした。