当時、黒川氏は東京高検検事長という検察ナンバー2の立場だ。一般的に事件に直接、関与する場面はないとみられる。
原告側が、定年退職となると支障をきたすような重大な事件があったのか、について尋ねたところ、
「個別の人事にあたり、職務上の秘密ですので回答を差し控えたい」
と明言を避けた。ただ、黒川氏以外に定年延長が適用された人がいたかを聞かれると、
「黒川氏だけが適用され、その後もいないと思う」
と答えた。
答えに窮した元事務次官
そして、原告側が「安倍晋三 回顧録」(中央公論新社)に、黒川氏の定年延長について、
<黒川さんの定年延長を求めたのは辻裕教法務事務次官と、当時の稲田伸夫検事総長ですよ>
との記述があることに触れ、
「総理がお書きになられている。これ事実ですね」
と問うと、
「えー、あの、個別の人事にかかわることですので、控えさせていただきたい」
と答えに窮する様子が見て取れた。あいまいな答えが続くなか、辻氏へ単刀直入に切り込んだのが、最後に質問した徳地淳裁判長だった。
「第三者的に見ると、黒川さんの定年退職の日に間に合わせるように、急いで準備したように見えなくはないが、そういう見方についてはどのようにお考えですか」
そう尋ねられた辻氏は、
「そういう事実関係ではないと申し上げることになる」
などと答え、特定の検察官のためではないと主張した。
「なかなかお答えしにくい……」
また、徳地裁判長が、法改正が実現する前に勤務の延長を決めたことについて「違和感を感じる」とし、
「法務省で法改正後に適用という議論はなかったのですか」
と質問すると、
「ええ、まあ、ちょっと、大事な人事にかかわってまいる質問なので、申し上げにくい……なかなかお答えしにくいところではあります……」
などと言葉に詰まりながらの答弁に終始した。