検事時代に黒川氏と同期だった、弁護士の郷原信郎氏はこう話す。
「検察官は国家公務員ですが、より権限が強い検察庁法をベースにして職務を遂行します。しかし、当時、法務事務次官だった辻裕教氏らは、国家公務員法の条文を適用し、それまでの解釈を変えて定年延長をしました。安倍政権の意向を受け、黒川氏を検事総長にするために、恣意(しい)的に変えたとみられても仕方がないです」
最終的に黒川氏は、新型コロナの緊急事態宣言が出ていた最中に、新聞記者らと“賭けマージャン”をした問題で、2020年5月に東京高検検事長を辞任した。
異例の元事務次官の証人尋問
12月1日の大阪地裁での辻氏の証人尋問。
そもそも辻氏の証人尋問が決まったのは、辻氏が仙台高検検事長に在職していたときだった(今年7月に退職)。高検検事長は、大臣などと同様に、天皇の認証を必要とする「認証官」という役職だ。天皇陛下の前で首相から直接、「辞令書」を受け取る。そうしたポストの人が証人尋問で出廷するというのは極めて異例のことだった。
尋問は国側から始まった。
解釈を変更したのは、安倍政権のためだったのか。その問いに辻氏は、
「社会情勢の変化で、犯罪の捜査も複雑化していることもあり、途中で検察官が定年退職となり、担当が交代すると場合によっては重大な支障をきたす」
などと説明し、黒川氏のために法解釈を変更したという見方については否定した。
次に原告側が、昭和の時代から変更されていなかった法解釈について、
「40年も変更されていないものが、なぜ2019年12月から検討され、2カ月で急に変わったのか。変える必要があったのか」
と質問すると、
「検察官が定年退職となれば、捜査などに重大な支障をきたす場合がある」
と従前の証言を繰り返した。