検察庁法改正案に抗議する声はツイッターでも急速に広がった=2020年5月15日、国会前
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 安倍政権の意向だったのかーー。2020年に「官邸の守護神」と呼ばれた東京高検検事長の黒川弘務氏の定年延長が閣議決定されたことをめぐり、国に関連文書の開示を求めた裁判。法解釈の変更を主導したと言われる当時の法務事務次官の証人尋問が12月1日にあった。切れ者で知られる人物だが、質問に対する答えに窮する場面が目立った。彼を知る人物は「信じられない」と驚いた。

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 裁判の内容に触れる前に、裁判に至る経緯を簡単におさらいしておきたい。

 2020年1月31日、安倍政権は、東京高検の検事長だった黒川氏の定年について、その年の8月まで延長する閣議決定をした。

 というのも、黒川氏はその約1週間後の2月8日に誕生日を迎え、63歳で定年となり、退任の予定だった。当時の検察庁法では、検察トップの検事総長以外の定年は63歳と定めていたが、安倍政権は、検察庁法でなく、解釈を変えるという特例で国家公務員法を適用したのだ。

国は隠している

 それまでの政府の法解釈では、国家公務員法の規定は検察官には適用されないというものだった。にもかかわらず、強引ともとれる解釈の変更に、

「『桜を見る会』などの問題を抱えている安倍首相が、政権に近い“官邸の守護神”でもある黒川氏を検事総長に据えたいからだろう」

 といった批判がわき起こった。

 そこで、神戸学院大学の上脇博之教授が、黒川氏の定年延長に関する公文書を情報公開で求めたところ、国は「作成していない」「不存在」としたため、上脇教授は開示を求め、今回の裁判を起こしたのだ。

上脇教授の行政文書開示請求について、不開示を決定したことを伝える法務省の通知書

 上脇教授は、

「黒川氏は過去に例がない形で定年延長となりました。その後、黒川氏の賭けマージャン問題が発覚し、処分には詳細な決裁文書がある。当然、定年延長についてもあるはずなので、国は隠していると思い、提訴しました。そして、もう一つ。なぜ、安倍政権の守護神と呼ばれた黒川氏だけが定年延長になったのか。その真相解明です」

 と裁判を起こした理由について語った。

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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