というのも、はるか上空のGPS衛星から得られる位置情報は誤差もそれなりに大きく、自動車の運転というタスクに用いるには精度が粗いからです。そのため、GPSでは大まかな位置の把握を、センサーで細かい位置の把握を行っています。

 ただし、センサーから送られてくるデータにはノイズ(ブレや乱れ)が含まれているので、この情報だけでは細かい位置の把握を十分な精度で行うことはできません。

 そこで、自動運転車のAIは、自分自身が出した運転の命令に基づいて位置の推論(先ほど右に30cm移動するように命じたから、今は30cm動いているはずだ、といったように)を行い、それをセンサーのデータと照合することで精度を上げています。

 車が動くと、すべてのセンサーから、どんどん新しいデータが入ってくるので、AIはこれらを使って、随時新しい現在位置を推定し、それが“本当の現在位置”に一致する確率をはじき出していきます。ここで使われているのがベイズ統計学なのです。

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冨島佑允

冨島佑允

●冨島佑允(とみしま・ゆうすけ) 1982年福岡県生まれ。京都大学理学部卒業、東京大学大学院理学系研究科修了(素粒子物理学専攻)。MBA in Finance(一橋大学大学院)、CFA協会認定証券アナリスト。大学院時代は欧州原子核研究機構(CERN)で研究員として世界最大の素粒子実験プロジェクトに参加。修了後はメガバンクでクオンツ(金融に関する数理分析の専門職)として各種デリバティブや日本国債・日本株の運用を担当、ニューヨークのヘッジファンドを経て、2016年より保険会社の運用部門に勤務。2023年より多摩大学大学院客員教授。著書に『日常にひそむ うつくしい数学』(小社)、『数学独習法』(講談社現代新書)、『物理学の野望――「万物の理論」を探し求めて』(光文社新書)などがある。

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