先日行われた永田町子ども未来会議で、長男をハワイのプレスクールに入れ、現地で感じたインクルーシブ教育事情を発表してきました。多くの方とつながることのできる場は大切だと実感しました(写真/江利川ちひろ提供)

「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害のある子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出合った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

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  11月7日に「第47回永田町子ども未来会議」に出席し、私自身の事例を発表してきました。この会議は医療的ケア児の支援を、政府と民間の有識者で検討する勉強会です。

 全国医療的ケア児者支援協議会が主催し、超党派の国会議員や、こども家庭庁や厚生労働省、文部科学省など関連省庁の官僚や、医療や福祉事業の関係者などが集まり、医療的ケア児に関する施策や制度を検討する場です。

 今回は、こども家庭庁や文科省から医療的ケア児への支援に関連する概算要求案、厚労省から医療型短期入所事業所開設支援についてなど政策に関する報告のあと、東大阪市と株式会社ノーサイドの公民連携によって地域の学校や保育園に親の付き添いなしに過ごせるようになったことなどの実践紹介があり、国や地域が医療的ケア児の今後をしっかりと考えようとしてくださっているのが伝わってきました。

 そんな中で、私への依頼は「ハワイのインクルーシブ教育事情について」でした。内容は医療的ケア児の長女ではなく肢体不自由児の息子のことですが、10年前からずっと伝えたかったことを政治家や関係者のみなさんに発表させていただけるまたとない機会です。インクルージョンの視点は医療的ケア児に限ったことだけではないため、ありがたくお受けしました。そして医療的ケア児の話にも触れることができるように、タイトルを「インクルーシブ教育の重要性~日米のインクルージョンの概念の差と今後の課題」としました。

「子どもだけの社会」がある

 発表では、現在は社会福祉士・ソーシャルワーカーとして働いていることや大学で医療的ケア児の家族支援を中心に研究していること、我が家の子どもたちの紹介、ハワイに行くことになった経緯、アメリカの制度や日米のインクルージョンの概念の違いについてお話しました。特に力を入れて伝えたのは、息子が過ごしたプリスクールでのできごとや、ソーシャルワーカーを中心とするIEPという個別教育プログラムが確立されていることです。アメリカでは、ソーシャルワーカーは障害のある子ども本人だけでなく、家族をひとつのチームと見て生活全般のコーディネートをしてくれます。この概念の違いが日本の家族支援に大きな影響があると思うのです。

 私は息子をプリスクールに入れて、子どもには「子どもだけの社会」があることを知りました。障害に対する偏見のない幼児期の子どもは、どうすれば困っている相手に手を貸せるかを、自分の持っている力を最大限に出して一緒に考えようとしてくれます。息子は足が不自由なだけでなく、言葉の壁や文化の違いなど、多くの“障害”がありました。それでも、子どもたちの気持ちに先生という大人の力が少し加わるだけでインクルージョンは実現するのです。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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インクルージョンが当然で育った子どもが大人になると