ニューヨークを拠点に性暴力被害者を支援する活動家・タラナ・バークさん(中央)。2006年に「Me Too」のスローガンを提唱した=2017年11月12日、米・ロサンゼルス(写真:Shutterstock/アフロ)

池上:もう一つ、日本が危機意識を抱かなければいけないのはジェンダーギャップに対する認識の遅れですよね。ジェンダーに関する様々な問題を解決することは経済にも良い影響を与えるのですが、それもあまり知られていません。

斎藤:GDPを急いで増やすことが難しくてもジェンダー平等ならすぐにでも実現することが可能です。低成長、人口収縮に歯止めが利かない日本にできることがあるとすれば、経済成長だけを追求することではなく、他国に先んじて社会的な成熟を遂げることだと思います。

池上:「AERA」が歩んだ35年間は日本の経済が停滞に向かう期間だったと言いましたが、一方で女性の社会的な立場は大きく変わりました。男女雇用機会均等法以降、メディアの世界でも女性が多く採用されるようになった。以前は記者といえば全員男性でしたから。そのことによってたくさんの気づきが世の中にもたらされるようになったのは間違いありません。

民主主義問い直す好機

斎藤:いろんなところに変化のきっかけはあると思うので、私たちはそのための想像力を取り戻さねばなりません。経済成長が単線的に進む未来はもうあり得ないので、私たちはもっと別の仕方で生きる道を見つける必要があるでしょう。その際には、ネガティブな状況をいかにポジティブなものに変えられるかが重要です。例えば、アメリカのリベラルが前提としてきた民主主義や人権のダブルスタンダードは欺瞞でしかない。でも、そこから、じゃあ本当の意味での民主主義や人権とは何なのかを若い人たちと一緒に考えていくことだってできるのですから。

池上:斎藤さんがおっしゃったように私たちは現在、複合危機の時代にいます。それはある意味ではリベラルが改めて理論や考え方を打ち固めていくチャンスでもあるということですね。

斎藤:はい。最近刊行された『マルクス解体』でも論じたように、マルクスだって彼が築き上げた理論を晩年、彼自身が否定しました。その動きから学べることは少なくないはずです。真の民主主義、真の持続可能性、真の平等とは何か。今の時代はそのことを再び問い直す絶好の機会なのです。

(構成/ライター・長瀬海)

AERA 2023年11月20日号

暮らしとモノ班 for promotion
大谷翔平選手の好感度の高さに企業もメロメロ!どんな企業と契約している?