AERAは今号で2000号。これを機に、本誌が報じてきたテーマでいま一番聞きたい対談をお届けします。ジャーナリストの池上彰さんと東京大学大学院総合文化研究科准教授の斎藤幸平さんは、この時代、この社会のこれからについてのお話です。AERA 2023年11月20日号より。
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斎藤幸平(以下、斎藤):今、この世界は、多くの危機が複雑に絡まっている状態のポリクライシス(複合危機)に突入しています。まず、パンデミックが自国優先主義と国際機関の地位低下をもたらし、戦争につながった。その結果、グローバル化が民主主義や経済成長をもたらすという神話が完全に終焉を告げ、世界は分断されてしまった。グローバルノースとグローバルサウス、米中ロといったわかりやすい亀裂だけでなく、国内外のあちこちで政治的、経済的な分断が起きています。その結果、低インフレの時代は終わり、エネルギーや労働力の価格が上昇していく。さらに気候変動はこの悪化傾向をさらに悪化させます。
池上彰(以下、池上):ロシアとウクライナの戦争を見ていると、戦争は環境破壊なんだと思わされますね。気候変動に対する危機意識も一層深まった気がします。極右も台頭してきて、難民問題も悪化の一途を辿りつつあります。リベラルも難民の数が増えると、これまでのように綺麗事ばかり言っていられなくなる。アメリカだとテキサスやフロリダに加えて、ニューヨークが難民の受け入れに難色を示し始めました。
楽観主義が通用しない
斎藤:ただ、今後想定される気候変動が招く災禍を考えればこれらもまだ序の口です。より大規模な自然災害が常態化し、難民問題だけでなく、資源や土地の奪い合いも起きるでしょう。
池上:先日、国際通貨基金(IMF)が、2023年の名目国内総生産(GDP)で日本がドイツに抜かれ、世界3位から4位に転落するとの見通しを示すという衝撃的な報道がありました。ドイツの人口は日本の3分の2程度で、経済もヨーロッパのなかでは低迷している国です。そこに抜かれるというのは日本の経済がはるか前からうまくいっていなかったことを意味します。「AERA」は今号で創刊2000号ですが、この35年間は日本の経済が停滞に向かう期間でもあったわけですね。
斎藤:その結果、20世紀的なリベラル左派の思想が前提としていたような楽観主義はもはや通用しません。環境問題、パンデミック、戦争、インフレといった複合危機の時代に、社会をだんだんと良くしていけばいいという思想は通用しないのです。