加えて印象的だったのは展示技術の巧みさだ。迷宮的な動線とマルチメディアを駆使した体験型展示によって、陰鬱な歴史にも関心を惹きつけるよう随所で工夫がされている。実際、平日にもかかわらず多数の観客がいた。日本の博物館も学ぶところがあろう。
イスラエル情勢は緊迫の一途を辿っている。ハマスと紛争が始まってひと月が経ち、死者は1万人を超えた。4割が子どもと言われる。ガザ地区の市街戦も始まり、もはや共生の選択肢は消えたかのようだ。
けれども博物館を訪問し改めて感じたのは、ユダヤ人が本来もっていた共生の伝統だ。ホロコーストの傷が癒やしがたく深いとしても、精神は今も残っていると信じたい。もし未来の博物館が、アラブ人が消えたパレスチナの歴史を展示するようなことがあれば、それこそ悲劇ではなかろうか。
※AERA 2023年11月20日号