今年は連日のように熊が人を襲うニュースが報じられている。写真はイメージ

クマ出没は「野良犬駆除」の結果

 さらに踏み込むと、「野生動物が人里に下りてくるようになったこと自体が、野良犬の駆除の結果だ」というのが、今泉さんの持論だ。

 かつて、クマだけでなくシカ、イノシシ、サルなどにとっても、野良犬は厄介な存在だった。そのため、野良犬が暮らす里山は、自然界である山と、人が住む町の間の“防波堤”となり、野生動物を人のそばに寄せつけない機能を持っていたのだという。

「野良犬を駆除したことで狂犬病は撲滅できたけど、代わりに獣害が増えてしまった。人間の都合だけで自然に手を加えてはいけないという、典型的な例です。一度壊した生態系は、なかなか元には戻らない。大変な時代になってしまったね」

 今泉さんによると、最近のクマは犬だけでなく、もはや人のことも怖がらなくなりつつあるという。人が山に捨てる残飯の味を覚えたことで、クマよけの鈴の音を聞くと、エサを期待して逆に寄ってくるケースが指摘されているのだ。

 人間側の都合によって、クマはその生態をどんどん変化させ、私たちに牙をむくようになった。自然界からの“しっぺ返し”が収まる日は、来るのだろうか。

(AERA dot.編集部・大谷百合絵)

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大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

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