石川直樹(いしかわ・なおき)/1977年生まれ。写真家。20代前半からエベレストなど8千メートル級の山に登り、写真を撮っている(撮影/写真映像部・東川哲也)

 8千メートル峰全14座登頂を目指して競っていた米国の女性登山家2人が10月、同じ山で起きた雪崩で亡くなった。現場近くにいた写真家の石川直樹さんが語った。AERA 2023年11月13日号より。

【写真】頂上間近で雪崩に…写真家・石川直樹が見た!シシャパンマ頂上直下の斜面がこちら

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 世界の8千メートル級の高峰14座のうち、既に12座の登頂を果たしていた写真家の石川直樹さん(46)が、この10月、残りの2座、「チョ・オユー」と「シシャパンマ」への登頂をめざしてチベットに入った。中国当局から入境許可がなかなか下りず、しばらくネパールの首都・カトマンズでの滞在を余儀なくされたものの、まず10月2日にはチョ・オユーへ登頂した。

「チョ・オユーは8千メートル峰の中では比較的登りやすい山とされていますが、今回は頂上近くでホワイトアウト(雪煙の中で方向や地形がわからなくなる状況)になって地形もわからなくなり、撤退も覚悟しました」

軍隊仕込みのやり方で

 ところが、別隊のニルマル・プルジャという英国軍隊にもいたことのある登山家と合流し、GPSで座標を確認して、前を行く人の背中を見失わないように接近しながら進む軍隊仕込みのやり方で登っていくことができた。

「こんな状況では正確な頂上がわからないかと思っていたけれど、前日に登頂した中国の科学者隊が気象観測機器を設置し、タルチョという旗を残していたので最高点がわかりました。奇跡的に登頂できてよかったです」

 その後石川さんはすぐに14座最後の目標であるシシャパンマへ向かった。ペースは速かったが順調に進み、7日早朝、頂上に近い地点で、石川さんたちの隊を二つの隊が追い抜いていった。アメリカ人女性のアンナ・グトゥの隊とジーナ・ルズシドロの隊で、経験豊富なシェルパがそれぞれ2人ずつ。彼女たちは「アメリカ人女性初の14座登頂」を競っていたのである。

「僕たちは急ぐ理由もなかったので2人がすごい勢いで登っていくのを見ていました。僕はアンナともジーナとも友人で、同じ隊で登ったことがあります。彼女たちはライバル意識が強く、それぞれのシェルパもなんとかして先に登らせたいと後押しする気持ちがあったと思います」

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