これは、投資家に出資してもらったお金の一部を返還していることと同じになります。ビジネスをするのに必要十分な金額を超えた分は株主に返すということです。そうすれば、株主は返還されたお金を、また別の有望企業に投資して、もっと儲けることができるでしょう。

 結果として、株主に対してそういう配慮をする企業は投資家から気に入られて、さらにビジネスのための出資をしてもらいやすくなります。

 このように、新しい価値観によって人や企業の行動が変わることを、少し難しい言葉で「行動変容」といいます。ROEの数式が投資家や経営者の価値観を変え、行動変容へつながっていったのです。

数式の創造サイクルの一例《ROE》(図版制作・朝日新聞メディアプロダクション)

 ここでのROEの話は一例にすぎません。こんなふうに「数式の創造サイクル」によって世の中が変わっていった、あるいは今まさに変わっている最中なのです。

 大切なのは本質を見る目であり、数式はそのための強力な武器です。読者のみなさんも、本書をヒントに、自分自身が直面している課題について本質は何かを考えてみると、何か解決の糸口がつかめるかもしれません。この本を通してみなさんに身につくであろう数式読解力が、その思考を助けてくれるはずです。

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冨島佑允

冨島佑允

●冨島佑允(とみしま・ゆうすけ) 1982年福岡県生まれ。京都大学理学部卒業、東京大学大学院理学系研究科修了(素粒子物理学専攻)。MBA in Finance(一橋大学大学院)、CFA協会認定証券アナリスト。大学院時代は欧州原子核研究機構(CERN)で研究員として世界最大の素粒子実験プロジェクトに参加。修了後はメガバンクでクオンツ(金融に関する数理分析の専門職)として各種デリバティブや日本国債・日本株の運用を担当、ニューヨークのヘッジファンドを経て、2016年より保険会社の運用部門に勤務。2023年より多摩大学大学院客員教授。著書に『日常にひそむ うつくしい数学』(小社)、『数学独習法』(講談社現代新書)、『物理学の野望――「万物の理論」を探し求めて』(光文社新書)などがある。

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