委員会で可決されたものの、批判が相次ぎ廃案となった埼玉県虐待禁止条例改正案。もし県議会本会議で可決されたら、低学年児童だけでの登下校も禁止され、保護者による送迎が必要になるところだった(写真/Getty Images)
この記事の写真をすべて見る

 埼玉県の“子ども放置禁止”条例案をめぐる騒動が話題になり、海外の法律で子を一人にさせることを禁じる国に注目が集まった。だがいま、その弊害も指摘され始めている。「過保護」が問題視されているというのだ。AERA 2023年11月6日号より。

【図】海外で子育てする日本人に聞いた 各国の登下校の状況はこちら

*  *  *

 海外とは異なる日本の治安事情。子どもだけの公園遊びや登下校は、子が成長する機会と捉える声もある。

「(条例案の)ニュースを見て過保護なんじゃないの?と思いました。子どもの自主性に任せて、自分たちでルールを守って登下校したり遊んだりする方がよっぽど健全だと思います」

 と話すのは千葉県で小学1年の息子を育てる会社員男性(45)だ。近所の習い事や友だちの家へ行くのも成長の機会と捉え、GPSを持たせた上であえて自分の足で行かせている。

 アメリカの教育事情に詳しいハワイのバイリンガルスクール「TLC for Kids」代表の船津徹さんによると、近年アメリカでは過保護が問題視されているという。

「過干渉の親はヘリコプターペアレント(上空を旋回するヘリコプターのごとく、子どもを常に監視する親)と呼ばれ、問題になっています。見守るだけでは飽き足らなくなり、子どもの行動を朝から晩まで管理し、干渉し、先回りし、親の思い通りにコントロールするようになります」(船津さん)

 かつてアメリカには、高校を卒業すれば家を出て、大学進学や軍隊への入隊、就職など、自立への道を歩み始めるのが当たり前という価値観があったが、過保護になったアメリカでは、大学を卒業しても実家に戻り、親と同居する若者が増えている。

「2018年にユタ州で子どもを過剰な干渉から守るための法律が成立しました。子どもの自立心を育むために一人で登下校させたり、自由に公園で遊ばせたりすることを許可する法律です。この動きはアメリカで広がりをみせており、23年8月現在、全米8州で法案が可決されています」(船津さん)

 ニュージーランドでも教育現場から、法律のデメリットを指摘する声が聞こえてくる。7歳と10歳の娘を地元の学校に通わせている現地在住の40代女性は言う。

「学校の先生が『法律のせいで親子の距離が近すぎて子離れ親離れできない子も多い』と話していました。私も小学校の手伝いに入っていますが、甘い親が多いからか、オンオフの切り替えができない子、先生の指導を聞かない子も多い。『親がそばにいる=いい子育て』とは限らないということでしょう」

暮らしとモノ班 for promotion
【フジロック独占中継も話題】Amazonプライム会員向け動画配信サービス「Prime Video」はどれくらい配信作品が充実している?最新ランキングでチェックしてみよう
次のページ