アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員である広島大学病院皮膚科教授の田中暁生医師はこう話します。
「面倒な治療を継続してもらうためには、まず、患者さんにアトピー性皮膚炎の原因や治療目的を正しくお伝えすることが大事と考えています」
目を向けてほしいのは「皮膚の乾燥」
田中医師によれば、アトピー性皮膚炎はかゆみをともなう湿疹がよくなったり、悪くなったりを繰り返す病気です。主な原因は「皮膚の乾燥」と「アトピー素因(アレルギー体質)」の二つです。
「このうち、患者さんにまず、目を向けてほしいのは『皮膚の乾燥』です。アトピー性皮膚炎の皮膚はカサカサと乾燥していますが、これは皮膚を守るバリア機能が破綻(はたん)しているためです。バリア機能とは、体内の水分が蒸発するのを防いだり、外界からアレルゲンなどの異物が侵入するのを防いだりする働きのこと。この働きが機能しないとちょっとした刺激で炎症が起き、湿疹ができます。湿疹自体は健康な人にも出ますが、アトピー性皮膚炎の患者さんはなかなかよくならず、長引く点が特徴です」
では、アトピー素因についてはどう考えればいいのでしょうか。アトピー素因とは気管支ぜんそくやアレルギー性鼻炎など、アレルギー疾患になりやすい体質のことです。両親や兄弟にアトピー素因を持つ人がいる場合には体質を受け継ぎやすくなります。アトピー素因のある人は外からの異物に対して、アレルギー反応を引き起こす原因となるIgE抗体を産生しやすいこともわかっています。
「アトピー素因は体質ですから、残念ながら治すことはできません。一方、皮膚の乾燥をよくするとバリア機能が戻り、アレルゲンが侵入しにくくなるので、アレルギーの症状も起こりにくくなります。例えばダニアレルギーの患者さんの場合、肌がよくなればそれまで避けていたほこりのある場所にいても、アトピー性皮膚炎の症状が出ないようにすることが可能です」(田中医師)
炎症のある皮膚からの「経皮感作」が主な原因とわかってきた
前出の大矢医師は、「乳児に多い食物アレルギーも、アトピー性皮膚炎を早期に治療することである程度予防ができます」と話します。