子どもが虐待されている疑いを持った場合、児童相談所などに通告する義務がある。だが、通告すればすべて解決というわけではない。地域でほかにできることはないのか。今年、数カ月間続いた虐待児と隣家に住む女性との交流の事例を通して考える。AERA 2023年10月30日号より。
【写真】さやちゃんがお礼といって持ってきた、カレンダーがこちら
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首都圏で暮らす女性(62)が、隣に転居してきた家族に違和感を抱くようになったのは、割とすぐのことだった。
引っ越しの挨拶に来た30代半ばの母親は、「夜泣きがひどくて、迷惑をかけるかも」と頭を下げた。夫婦には2歳と小学1年生の女の子がいると言う。
女性と隣の家は2階建ての一軒家を縦割りにした横並びで、壁一枚隔てただけ。2階にあるベランダは隣接と言えるほどの距離で、玄関も近い。
その家はなぜか、天気が良くても昼間から雨戸を閉め、ひっそりと静まり返り、泣き声どころか、子どもの声さえしない。ベランダに洗濯物が干されることもない。ある日、二人連れの女性が訪ねてきたが、母親は居留守を使う。こんな光景を2度、目撃した。
なぜ、幼児がいるのに洗濯物を干さないのだろう。なぜ、この距離なのに一度も子どもに会えないのだろう。どう考えてもおかしい。女性は小学校の下校時間を見計らって通りに立ち、家の門をくぐった女の子に声をかけた。
「もしかして、お隣の子?」
その声に振り返った女の子は、元気いっぱいに、「はーい!」と笑う。
「私、隣の者です。よろしくね!」
「私、さや(仮名)です! よろしく」
「お隣だから、遊びに来てー」
「うん、お隣だもんねー」
屈託のない笑顔に、女性は「よかった」と胸をなで下ろした。
このあと書いてあることは、さやちゃんと女性の数カ月間の交流の一部だ。会話内容や、いつも同じ服を着ている様子から、女性はさやちゃんがネグレクト(育児放棄)を受けていると確信していく。虐待に気づいたとき、どうすればその子を救えるのか──。