女性の家のクレヨンやペンで、嬉々としてお絵描きをした。音読もとても上手だった(撮影/黒川祥子)
さやちゃんが、「公園に連れて行ってくれたお礼」だと持ってきてくれた、カレンダー(撮影/黒川祥子)

お弁当が面倒くさいから、遠足に行かせてもらえない

 次の土曜日、さやちゃんが「服は返す」と持ってきた。ママに言われたから、と。きっとお昼を食べてないだろうと思い、女性がフレンチトーストを作る。「おいしいね」と言いながらあっという間に食べ終わり、りんごとお茶、リクエストの納豆2パック山盛りごはんをぺろりと食べる。

「ねえ、何でこんなに料理を作るの?」

 さやちゃんが真顔で問いかける。家では誰かが料理をする景色を見たことがないのか。

「パパは焼きそば、作ったことがあるよ」と、取ってつけたように言った。

「さやのママって、おかしいと思わない? ぼーっとして、寝てばっかり」

 だから身の回りのことも食事も、何もしてもらえないのか。

 あるとき、「この辺の子は遠足どこに行くの?」と聞くと、さやちゃんは、

「パパとママ、お弁当作るの、面倒くさいから、さや、遠足はお休みなの」

 公園で遊んで泥だらけになったため、シャワーに誘うと、「冷たいから、嫌」と怖がった。温かいシャワーに「あったかくて気持ちいい」とすごく喜ぶ。

「次の土曜日は、お花見に行こうね!」。こう言って別れた直後、隣家から凄(すさ)まじい怒鳴り声がする。さやちゃんがやってきて、女性の家の玄関で固まった。

「次の土曜日は、ばあばのところに行くからダメだった」

 そう言って、声を押し殺して泣いた。身体を触ったら、カチカチに固まっている。顔は、まるで鉛のように黒かった。

 これが、女性がさやちゃんと会った最後だという。

 女性は、給食のない長期休みにもさやちゃんが昼食を食べられるよう、友人たちと連絡を取り合って、当番も組んで準備していた。

「お節介(せっかい)なおばちゃん、おじちゃんたちが見守っていれば、ああいう家庭ではあるけどさやちゃんを守れると思っていたのに……」(女性)

 最後に会った数日後、さやちゃんだけが遠方の祖母宅に転居し、隣家では夫婦と2歳の女の子が3人で暮らしている。

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