最初に見かけた日以降、しばらく会えない日が続いたが、ある日、薄暗い寒空の下、道にさやちゃんが立っていた。暗い顔で俯(うつむ)き、前に会った時とは別人のよう。
「さやちゃんだよね。何しているの?」
「パパとママと一緒に出かけたんだけど、さや、先に家に着いちゃった。だから、ここでパパとママ、待ってるの」
嘘だな、外に出されちゃったのかなと、女性は思った。さやちゃんは下を向き、目を合わせようとしない。
「じゃあ、寒いから、うちでパパとママを待っていればいいじゃん?」
さやちゃんは俯いたまま、首を振る。自宅に戻った女性は思いっきり叫んだ。
「さやちゃん、おいでー!」
さやちゃんはすごい勢いで走ってきて、まっしぐらに女性の家へ。リビングで温かなミルクティーを飲み、「おいしいね」とニコニコ笑う。さっきとは真逆の、テンションの高さだ。「次の土曜日、一緒に公園へ行こうね」と盛り上がった頃、母親が懐中電灯を持って外を捜す姿が見えた。女性は母親に謝り、さやちゃんを家に帰した。
冷蔵庫を開けて食べたら、親から「泥棒は出て行け」
数日後、学校が始まっている時間なのに、さやちゃんは門のところにいる。女性を見るや、慌てて、「学校がどっちか、わからなくなっちゃった」と言うが、そんなわけがない。女性が「あっちだよ。早く行きな!」と声をかけると、弾みがついたように駆けていった。頭はボサボサだった。もしかして、起こしてもらえなかったのか。
土曜日、女性は約束通り、さやちゃんと公園へいった。さやちゃんは泥だらけになって遊んだ。お菓子をものすごい勢いで平らげ、ポットのミルクティーも一気に飲み干す。もしかして、昼食を食べていない?
翌週、さやちゃんがお礼の手紙を持ってきた。一人で留守番をしていたというので、女性の家で遊ぶことに。あまりに髪がボサボサだから髪をとかしていると、突然、さやちゃんが言った。
「言っとくけど、さや、お風呂、入ってないよ」
ああ、そうなのか。女性は、黒くなって伸びていたさやちゃんの爪を切って、髪を三つ編みにする。
「鏡、見せて。さや、こういうふうにしたかったんだ!」