作家、コラムニスト/ブレイディみかこ
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 英国在住の作家・コラムニスト、ブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。

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 英BBCが、ジミー・サヴィルの性犯罪を描いたドラマ「The Reckoning」を放送した。同局の人気司会者だったサヴィルは、約半世紀にわたって未成年への性的虐待やレイプを繰り返し、被害者の数は500人以上とされており、日本のジャニー喜多川氏の事件と比較されている。

 サヴィルがこれだけの犯罪を続けられたのは権力者たちを抱き込んだからだが、今回のドラマが詳しく伝えたのは、サッチャー元首相との関係の深さだ。サヴィルは首相になる前から彼女に働きかけていた。彼を国民的スターにしたBBCの「ジムにおまかせ」は、サヴィルが子どもたちの夢を叶えるという番組だった(そして番組に出演した子どもに楽屋で性的虐待を加えていた)が、彼がサッチャーに出演依頼をしたとき、「私をまず首相にしてちょうだい」と彼女が言うシーンがある。サッチャーはサヴィルの人気を利用した。彼は数多くの慈善活動を行ったことで有名で、病院や養護施設などに出入りしていた。サッチャーは首相になってから、医療への財政支出を削りながら、高名なサヴィルの慈善活動に資金援助してイメージの相殺を図った。サッチャーは彼に感謝していたのだろう。私生活に問題がある人物だと周囲に反対されながらも、彼にナイト爵を与えるよう推挙し続け、彼女が首相を辞任した年、サヴィルはついにナイトの称号を受けた。それはサッチャーの最後の仕事の一つだったと言っていい。

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ブレイディみかこ

ブレイディみかこ

ブレイディみかこ(Brady Mikako)/1965年福岡県生まれ。

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