長野県軽井沢町で、大日向開拓地の野菜畑を散策する上皇ご夫妻=2023年8月23日、代表撮影

 上皇后美智子さまが89歳の誕生日を迎えた。絶対的な愛と冷静な目で、いまの天皇陛下を今日的な男性たらしめた、その子育てに対する姿勢を折々の言葉からたどった。AERA 2023年10月30日号より。

【写真】まさか1人だけドレスコードが伝わっていない?女性皇族がずらりと並んだ一枚

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〈「父母(ちちはは)に」と献辞のあるを胸熱く「テムズと共に」わが書架に置く〉

 1993年、皇后美智子さま(当時、現在は上皇后)が詠んだ歌だ。『テムズとともに』は天皇陛下による英国留学記。同年に出版され、この4月に新装復刊された。

 学び、友と親しむ陛下。常に自然体で、偉ぶるところが全くない。読み進み、気づいた。そこにいるのは現在の陛下だ、と。

 失礼を承知で書かせていただくのだが、陛下はとても今日的な男性だ。「マッチョでない」のだ。例えば9月20日の「日本伝統工芸展」を鑑賞する陛下がそうだった。この日、日本工芸会総裁を務める秋篠宮家の次女佳子さまが同席した。雅子さま愛子さまと共に総裁賞作品の説明を聞いた。そこで陛下が「何かありますか、佳子ちゃん」と佳子さまに声をかけた──そう報じられていた。

 日本工芸会幹部は佳子さまより年上がほとんどで、遠慮もあるのではと想像する。そこを陛下が「佳子ちゃん」と発言を促した。“若手&女性”へのエンカレッジ。なんて素敵なんだ、陛下。会社勤めを長くしていた身ゆえ、図々しくもそう感動した。

女性へのフラットな目

 陛下と雅子さまの対等な関係は、国民誰もが知るところだ。雅子さまへの愛情と信頼があってのことだが、そもそも女性へのフラットな視点があるのではないか。『テムズとともに』を読んで、思ったことだ。

 例えば大学内のバーで出会った学生の中に、「室内だというのに麦藁帽子をかぶり、額には銀色の星のマーク」の女性がいたと驚く。通った写真店には、現像用の封筒に黙って名前と住所を書いてくれるようになった「年輩の女性」店員がいた。彼女の退職の日、「お礼を言う絶好の機会」とティーパーティーに飛び入り参加した……。

 淡々とした筆致に、男女の区別はない。昭和育ちの男性は男性優位が内在化されていて、男女の区別がデフォルトで自分を大きく見せがちだ。そうでない(それが「非マッチョ」)陛下を前に、ふと思う。陛下はどうして陛下になったのだろうか。

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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