若者がひとり荒野で脱糞しようと力んでいる。このとぼけたプロローグから、ラストの展開を誰が想像できるだろうか。予想外の展開が続く冒険小説だ。
1975年春。台湾の総統・蒋介石が死去し、国中が喪に服していたある日、台北市の高等中学校2年生で17歳の主人公は、風呂場で祖父の遺体を発見する。祖父はなぜ誰に殺されたのか。不良仲間との友情、幼なじみとの恋。大人へ成長していく過程を描きつつ、ヤクザとのカーチェイスがあるかと思えば、大量発生したゴキブリに震えあがるシーンがあるなど、軽妙で振り幅が大きいのが本書の特色。
祖父の事件を忘れかけた後半、物語は怒濤のうねりをみせる。中国大陸にルーツを持つ祖父はそこで何をしたのか。村がまるごと消滅した日のことが解き明かされる。主人公の目線が回想的で、未来予告が入り込むあたりはスティーブン・キングを思わせる。少年期を台湾で過ごした著者による、抗日戦争から国共内戦へいたる裏面史を物語る筆致は、ポップにして重厚。とりわけラスト20頁は圧巻だ。
※週刊朝日 2015年6月19日号