岩井監督ならではの美しい映像とともに壮大な物語が描かれる。「できる限り撮影し尽くしたいと思った。そう思えたのは、キャストのみんなの力のお陰です」(岩井監督)(撮影/篠塚ようこ)
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 岩井俊二監督の映画「キリエのうた」が10月13日から公開される。監督と出演者のアイナ・ジ・エンドさん、松村北斗さんの三人で撮影現場を振り返った。AERA 2023年10月16日号の記事から。

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――映画「キリエのうた」で、アイナは“歌うことでしか声を出せない路上ミュージシャン”キリエを、松村は行方のわからないフィアンセを捜し続ける青年・夏彦を演じる。岩井監督と二人との出会いはどのようなものだったのか。

岩井:脚本を書いているとき、たまたまあるバンドの動画を観ていたら、ゲストでアイナさんが出演されていて。声も印象的で指先の動きも独特で、ボーカリストとしても、ダンサーとしてもすごい人だな、と。その時に「この人を主演に映画を作れたら」と思ったんですね。

 松村君のことは、NHK朝ドラ「カムカムエヴリバディ」で知りました。中学時代の友人に「若い頃の岩井に似ている人が出ているよ」と言われ、気になって。一緒に映画を作る日がくるとはその時は思っていなかったですが、会話をしていても自分を追い込んでいくエネルギーがあり、高い崖から飛び降りるくらいの覚悟を決め現場にきてくれているな、と感じました。

自然な空気のまま

――二人は、岩井監督の現場をどのように感じていたのだろう。

松村:誰も急いでいないのに、誰も怠けていない、というか。岩井さんの現場って、ずっと自然な空気のままなんです。その土地の空気のまま、まるでそれがずっと続いていたかのようなので、「はい、本番!」と言われても、そこで気合を入れるというより、「やっと話せるようになる」という気持ちに自然となれるというか。

「光がいい場所に移動してみよう」と、現場で柔軟に対応していくこともあるのですが、違和感がないんですね。それに、不思議と「言われてやっている」という気持ちにならない。岩井さんの「声」の魅力もあると思います。脳に直接語りかけてくるような感覚があり、「もうちょっと右に歩いて」と言われても、「いま自分は右に歩きたいと思っていた」と思えてしまうような。

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