目指すのはお節介ではない露払い!(イラスト:サヲリブラウン)
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 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 数カ月前の父の日のこと。SNSで回ってきた文章に、私は心を大きく揺さぶられました。ちょっと偉そうですが、すごい書き手が現れたぞと震えもしました。戦慄ではありません。新しい才能に出会ったとき特有の喜びが、私の体を震わせたのです。

 それは、娘の視点で描かれた、父との乱暴で繊細な関係についての文章でした。愛憎にまみれる親子関係自体はある程度普遍的な題材ですが、「私が経験したこととは似ても似つかないのに、湧き上がった筆者の感情は我がことのように理解できる」というような、個人の体験から多くの人の心に届く核を立ち昇らせる文章を書くのは容易なことではありません。それをたった3千字弱で達成していたのが「パパと私」でした。

 筆者は伊藤亜和さん。お父様はセネガル人で、亜和さんが18歳のときに父と娘で派手な喧嘩をし、それ以来7年間も顔を合わせていない。

 にもかかわらず、二人の間には不器用な愛情の川が静かに、しかし確かに流れているのが伝わってきました。検索すればすぐ出てくるので、未読の方はぜひ。

 力のある文章は自然と広まるもので、「パパと私」もあっという間に拡散されていきました。亜和さんのもとには、数々の連載や書籍の話が舞い込んだそうです。当然だ!

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