秋田県美郷町のクマが見つかった作業小屋前で対応にあたる警察官ら=10月4日

「公務員は奴隷ではない」

 10日になっても長時間の電話で激しい言葉を浴びせてきたり、公務員としての資質を問うてきたり、なかには「秋田県はクマに優しくない。だから秋田県は嫌われるんだ」といった内容や、相変わらず「責任者の名前を言え!」と迫ってくるものもあるという。

 仮に動物愛護の気持ちが根底にあったとしても、こうした抗議電話をかけることが正しい対応と言えるのだろうか。
 
 危機管理とコミュニケーションに詳しい東北大特任教授の増沢隆太さんは、

「30分、40分もの執拗な長電話はカスハラ(カスタマーハラスメント)に当たると考えます。電話を受けた職員が心を病んでしまう恐れもあり、言葉による暴力です」

 と厳しく批判する。

 県の担当者は、

「私たちから電話を切ることはできない」

 と苦しい胸の内を明かすが、増沢さんは、

「クレームのような電話に対しては、こうしたケースでは職員から電話を切っても良い、といったルールを作って、職員が疲弊することを防ぐべきです。今回のケースでも暴言だったり、無関係の内容だったりする電話をしてくる人がいるようですが、暴言を受けたら切る、『無関係の話は対応できません』と言って切るなど、ルール化したらいい。言葉の暴力を受ける必要などまったくありません。公務員は奴隷ではないのです」

 と毅然(きぜん)とした対応を取ることを勧める。

他の自治体でも起こる可能性

 全国的にクマによる人身被害が多発している状況で、今後、駆除する判断を迫られる自治体もあるだろう。

 増沢さんは、

「秋田県や美郷町で起きたことが、他の自治体でも起こる可能性があります」

 と指摘する。

「というのも、電話をしてくる人は、ハラスメントの自覚はなく、『世直し』といったゆがんだ正義感を抱き、正しいことをしていると信じ切っているケースが目立つからです」(増沢さん)

 増沢さんは、こうした電話を受けた際は「発表の通りです。それ以上は答えられません」とだけ答えたり、電話をかけ直すと伝えて相手の名前や電話番号を聞いたりするなどの対策を取ることを推奨する。

「匿名というひきょうな手段が、カスハラを助長するためです」
 
 増沢さんの言葉通り、長電話を受け続けることが公務員の本業ではない。電話が鳴りやまなければ、県民や町民のために必要な公務が、どんどん置き去りにされてしまうということを忘れてはならない。

(AERA dot.編集部・國府田英之)

著者プロフィールを見る
國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

國府田英之の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
なかなか始められない”英語”学習。まずは形から入るのもアリ!?