「総合診療医の魅力は大きく二つあると思っています。一つは、特定の臓器や器質疾患(体の問題)だけに着目するのではなく、心理社会的要因(心因疾患、家族・職場との関係など)を含めて臓器横断的に不調の要因を判断できるところです。あらゆる可能性を探り、患者さんを多角的に診察できるのは、総合診療医ならではの醍醐味といえます。もう一つは、医療施設の規模や区別にかかわらず、どんな場所でも専門性を生かした診療がすぐにできるところです。個人的に総合診療医は、どこの病院でも周囲に溶け込めると思いますよ」

診察では、患者さんに応じて話し方や声のトーンを変えるなど、さまざまなテクニックを用いている。 写真/高野楓菜(写真映像部)

 初期研修終了後3年間は、千葉大病院の総合診療科で研鑽を積み、2023年の4月からは東千葉メディカルセンターの内科(総合診療科)に勤務している。勤務先の選択には、田村医師自らの意向も反映されている。

「千葉県の地域枠制度は、医学生の頃から自分の進みたい診療科のキャリア形成を支援してくれます。プログラムごとに『コース管理者』と呼ばれる先輩医師が付いており、研修先や研修先ごとの勤務期間を相談して決めていくことができるので、安心です。現在の勤務先も、コース管理者と相談して決定しました」 

 実際、現在の勤務先での毎日も充実しているようだ。

「ここは地域の中核病院のため、千葉大病院のように1人の患者さんの診察に長い時間をかけることはできませんが、チームで協力し合うことで、必要な診察時間を確保しています。限られた時間で、どれだけ有用な情報を患者さんから引き出せるかというのも総合診療医の腕の見せどころです」

 地域枠へ応募したのは、必要に迫られてのことだったが、結果的に医師のキャリアとしても良い選択につながったと田村医師は話す。

「地域枠を選んでいなかったら、総合診療の魅力を知ることなく医師を続けていたと思うので、そうした意味でも地域枠に応募してよかったです。9年間という、決して短くない時間を地域医療に費やすことになるため、『地域枠では思い通りのキャリアプランを描けない』と、受験をためらう人もいると思います。ですが、なかには私のように偶然の出会いによって縁がつながることもあります。思いきって一歩踏み出してみると、想像もつかなかった出会いに恵まれるかもしれませんよ」

後編につづく。

(文/山本尚恵)

※週刊朝日ムック『医学部に入る2024』より

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