参考までに、私が開業前に指導を受けていた某歯科医院の院長は歯周病の名医で、「高くても構わないから、治療を受けたい」という患者さんがたくさん来ていました。今から30年ほど前ですが、上下の歯のブリッジで、1000万円の治療を受けていた患者さんがいたことを覚えています。設定している治療費が高いこともありますが、矯正治療や神経の治療なども入ったフルコースだったため、高額になったのだと思われます。
なお、グラグラする歯を抜いてしまって、「インプラントにする」という治療もあります。歯を残すことを重視する歯周病専門医はあまり推奨しませんが、インプラントの専門医は積極的に提案しているようです。「無理をして歯を残すよりも、抜いてインプラントにしたほうが、治療費も時間も無駄にならない」という考え方ですね。ただし、インプラントも1本あたり50万円くらいかかります。すべての歯を抜き、少ない本数のインプラントでたくさんの補綴物を支える「オールオン4(フォー)」など、インプラントの中でも治療費を安くすませる方法があります。どちらがいい悪いということではなく、最終的には患者さんの選択になります。
高額の治療が難しい場合は、歯を何本か抜いた上で、入れ歯を作る方法もあります。ただしこれもまた、歯周病という病気の特性で、むし歯のように1本だけ悪い歯がある場合と違い、全体の歯が悪いことが多いのでクラスプ(入れ歯を固定する金具)を引っかける歯がないことが多いのです。このため、部分入れ歯ではなく、総入れ歯に近いものを作らなければならないケースが少なくありません。ただし、保険が使える義歯であれば10万円以内でおさまる可能性が高いです。
このように歯周病は進行すると治療にお金がかかります。軽いうちに治療を受ければこのようなことにはなりません。メインテナンスを続けることで、再発も予防でき、一生、自分の歯で食べることができます。この記事を読んで、「こうはなりたくない!」と思った人はぜひ、歯科を受診してほしいと思います。ただし、大事なのはガイドラインで推奨されている、歯周基本治療をベースにした正しい治療を受けること。忙しいからと、痛み止めの薬や抗生剤の投与といった応急処置を繰り返しているうちに、歯周病はどんどん進みます。面倒でも、きちんと時間をとって適切な治療を受けていただくことを切に願っています。