やるなら100%
―伸びやかさを大切にする父と、勤勉さを諭してくれた母。2人に共通するのはフロンティア精神。そんな家庭で育ったカノアは、パリ五輪を前に、驚くべき決断をした。
五十嵐:「今年9月から、ハーバードビジネススクール(大学院)に進学することにしました。若くて元気なうちに、色々なことを吸収したいんです。もちろんメインはサーフィンに集中するけれど、休憩の時間に中途半端にサーフィンのことを考えてしまうくらいなら、新しいことを勉強したいと思ったんです」
―それにしても五輪前の重要な時期に入学を選んだというのは、やはり驚きである。
五十嵐:「パリ五輪の前年になぜ大学院に進学するの?という意見もありました。だからこそ『チャレンジする姿を見せてあげるよ』という気になったんです。アスリートだからといってスポーツしかやらないのではなくて、以前から投資やマーケットについて本を読んだり、商品開発にも興味がありました。でも本だけじゃなくて、世界のトップの人たちと勉強して、ビジネスでもトップを目指したいなと。どうせやるなら100%のパワーでやりたいので、ハーバード大学院という道になりました」
―勉強も五輪も。湧き出るエネルギーはいくらでもある。
五十嵐:「パリ五輪までの間は、なるべくタヒチに行きたいと思います。あの海の空気を読んで、土地のエネルギーを感じたい。12歳の時から毎年行っている海なので、なにか特別な準備をするというより、波と対話して、リズムを感じて合わせるだけでいい。だから自由にカノアのままでいればいい。そのためにもタヒチに通いたいなと思います」
―「カノア」とは、ハワイ語で「自由」という意味。両親から授けられた名前のまま、世界で最も美しく危険と言われる波を、カノアらしく感じ取っていく。
(構成/ライター・野口美恵)
※AERA 2023年10月9日号より抜粋