花王 ヘルス&ビューティケア事業部門 アジア(国際)事業推進部長 神谷光俊(かみや・みつとし)/1980年生まれ、愛知県出身。2004年、入社。サクセス、メリット、エッセンシャルのマーケティングを計11年担当。シンガポール、インドネシア、タイで計5年の海外駐在。23年から現職(撮影/伊ケ崎 忍)
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 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2023年10月9日号には花王 ヘルス&ビューティケア事業部門 アジア(国際)事業推進部長 神谷光俊さんが登場した。

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 デング熱やマラリアなど、蚊が媒介する感染症は人類を悩ませてきた。なかでもデング熱の感染者は温暖化や都市化が原因で東南アジアを中心に世界的に増加。有効な治療薬がなく、死者は世界で年間約2万人に上ると推計されている。

 その脅威から人々を守りたい──。東南アジア駐在時に抱いた思いを新しいタイプの蚊よけクリームとして商品化し、昨年タイでの発売にこぎ着けた。

 この商品はこれまでの虫よけとは全く違う発想から生まれた。蚊が人間の肌に降り立って、皮膚を刺すまでの行動に着目し、肌の表面を蚊が嫌う物性に変える。主な成分は、化粧品にも使われているシリコーンオイルで、肌に塗ると蚊が血を吸う前に飛び去るという。

「商品を売るというビジネスである一方で、デング熱の被害を減らすという社会貢献活動でもある。価値あるプロジェクトとしてまずはタイからはじめ、ゆくゆくは世界に広げていきたい」

 デング熱の脅威を身近に感じたのは、インドネシアに駐在していた2019年。子どもの命がリスクにさらされている事態が社会問題化していて、当時のインドネシアの社長からできることを模索するよう命じられた。

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