賃金水準が30年間ほぼ変わらない日本。物価が上昇しているのに、賃金はそれに見合って上がらず、家計に重い負担がのしかかる。だが2023年の春闘では、大手企業で大幅な賃金引き上げが相次いだ。今後も上昇していくのか。経済学者の野口悠紀雄氏の著書、『プア・ジャパン 気がつけば「貧困大国」』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集して解説する。
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付加価値の動向が賃金を決める
2023年の春闘では、大企業で満額回答が相次ぐなど、順調な賃上げが続いた。しかし、これが中小企業に波及するのは難しい。また、23年の春闘で賃上げが実現しても、それが24年以降も持続することは難しい。つまり、恒常的な賃上げには結びつかないだろう。
なぜこのように考えられるかを、2022年の法人企業統計の分析によって示そう。
企業は付加価値を生産し、これが賃金や利子などの支払いや利益などになる。そして、長期的に見ると、付加価値に占める賃金の比率(労働分配率)は、ほぼ一定だ。したがって、賃金の動向を決めるのは、付加価値だ。
ただし、法人企業統計の四半期データには、付加価値の値は示されていないので、この代わりに、「粗利益」(売上高‐売上原価)を見ることとする。付加価値と粗利益は厳密には同一のものではないが、ほぼ同じと考えてよい。