古舘伊知郎(ふるたち・いちろう)/1954年、東京生まれ。立教大学を卒業後、テレビ朝日に入社。プロレス実況が人気を博し、フリー転身後もF1中継などで活躍した。2019年4月から同大学経済学部客員教授。近著に『喋り屋いちろう』(集英社)(写真:古舘プロジェクト提供)
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 喋り手・古舘伊知郎の真骨頂とも言える「トーキングブルース」が始まったのは、今から35年前。68歳の今なおたった1人で舞台に立ち、2時間以上喋り続ける原動力に迫った。AERA2023年10月2日号より。

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―トーキングブルースは、古舘さんが所属する「古舘プロジェクト」の現会長(佐藤孝さん)が発案した。人間社会に渦巻く哀しみを古舘さんの生きた言葉で語りかけていく。「ブルース」でありながら「エンターテインメント」、またエンタメでありながら「人の心の痛みや摩擦、矛盾」ひいては「生きる」ことを観る者に深く考えさせていくライブだ。

 毎年テーマは異なり、9月1〜3日、東京・紀伊國屋サザンシアターで開かれた今年のテーマは「現代の信仰」(12月7日に追加公演がある)。オンラインでの配信もあったが、やはり会場での視聴は息をのむ。一発勝負の緊張感に、客との一体感。その空気に圧倒された。

 古舘さんはいう。

古舘伊知郎(以下、古舘):落語とか講談とか、古典芸能的な作品でもない。目の前で起きていることをライブで行います。お客様が主役ですから、現場で起きている空気を優先します。遅刻して会場に入った人が見えたら真剣に「実況中継」します。自ら作った構成を崩しにかかる覚悟でやっています。すべてはお客様のため。だから毎日違います。二度とない時空間。その空気感を大事にしようといつも心がけ、お客様の息遣いにあわせています。

 一人のジジイと言ってもいい年齢の人間がノーセットの舞台にピンスポあたってずっと喋(しゃべ)っている。後ろにはただひとつ、グラスに7分目入った水があるだけ。でも意地でも飲みません。「2時間以上もよく水も飲まないで息もつかないで」って言われるけど、息つかなかったら死んじゃうっつうの(笑)。でも僕が苦しむとお客さんに喜んでもらえる。そういうサディスティックな世界があるから、あまり自分がやりたいという方には勧められないですね。

結構しんどい個人作業

―ノンストップで2時間超、とにかくひたすら喋る。毎回見るたびに驚かされるが、台本はあるのか、ないのか。話す内容はいつもどうやって覚えているのだろうか。

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