「私が結婚したのは男よ、女じゃないわ!」。著者の妻の動揺は計り知れなかっただろう。放送業界で成功して、不自由ない暮らしをしていた夫から突然、「女性になる」と告げられたのだから。
本書は著者が女性として生活した約1年間の実験をまとめたものだ。肌寒い日にストッキングを購入したことから始まり、スカート、ハイヒール、人工乳房まで着けるようになる。化粧や歩き方はプロの指導を受け、女性の格好で飛行機に搭乗してしまう。外見の変化に伴う心理描写がおもしろおかしく描かれており、頁が進む。
とはいえ、著者は自らの性に疑問を抱いていたわけではない。男性が固定概念に縛られ、窮屈そうな一方、女性は自由で楽しそうではないかという純粋な好奇心から試みは始まった。実験中は女性の視点で男性を見つめ直すことで「男らしさ」や男女の違い、性とは何かにまで考えを巡らせる。外見が人間関係や自らの思考を制限するのを実証している点も興味深い。軽妙な文体ながら示唆に富んだ一冊だ。
※週刊朝日 2015年5月29日号