他方、「ブローク(文無し)・ブリテン」という言葉も登場している。英国第2の都市、バーミンガム市の議会が、9月初旬に事実上の財政破綻を宣言したことによる。女性職員からの同一賃金請求の和解金が莫大になったからと言われているが、地方自治体への中央政府交付金が10年間で40%削減されてきた事実も忘れてはならない。
緊縮の結果が「クランブリング」と「ブローク」だったら、支出削減で浮かせた金は、いったいどんな有効な使い方をされてきたのか? それで財政健全化を図っていたとして、校舎に倒壊の危険性がある学校が閉鎖し、地方自治体が立ち行かなくなるのなら、政府の財政は破綻していなくても、社会はすでに破綻しているのではないか?
人や社会より金が重視されるのが「行き過ぎた資本主義」だとすれば、緊縮も立脚する考え方は同じだ。そもそも、金も帳簿も、人が生きるためのツールに過ぎなかったはずなのに。
ブレイディみかこ(Brady Mikako)/1965年福岡県生まれ。作家、コラムニスト。96年からイギリス・ブライトンに在住。著書に『子どもたちの階級闘争』『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』『他者の靴を履く』『両手にトカレフ』『オンガクハ、セイジデアル』など
※AERA 2023年10月2日号