作家、コラムニスト/ブレイディみかこ
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 英国在住の作家・コラムニスト、ブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。

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「ブロークン・ブリテン」という言葉は、2010年に政権交代を起こした時に保守党が選挙戦で使ったものだった。暴力的なギャング・カルチャー、ドラッグやアルコールの問題、幼児虐待などの社会的荒廃を意味する言葉として使われた。キャメロン元首相は、「壊れた英国を修復する」と主張して労働党から政権を奪ったのである。

 以来続いている保守党政権が、次の総選挙でいよいよ終わるだろうと言われている今、類似した表現が生まれている。「クランブリング(ボロボロに砕ける)・ブリテン」である。「クランブリング」して倒壊する恐れのあるコンクリートを使用している学校が150校以上あると判明し、9月になっても新学期を迎えられずに閉鎖した学校が一部あったことに由来する。

 2010年に政権を握るとすぐ財政緊縮に着手した保守党は、労働党政権が進めていた学校の校舎の建て直しプログラムを中止にした。その決断が今になってこのような状況を招いていることは誰も否定できない。教育、医療、福祉への財政支出を大幅に削り、公的サービスやインフラを劣化させてきた保守党政治を象徴するような出来事としてメディアを騒がせた。

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