そんなこと言っても、結局のところ日本人はアメリカ人より痩せているじゃないか! 和食がヘルシーじゃないとしたらどういうことなんだ! とご立腹の方、落ち着いてください。日本の食生活は、確かにアメリカのそれと比べたら健康的です。その理由は、中身よりも量にあるのではないかと思います。ひとり分の量が、とにかく少ない。食べ物のサイズが小さい。個包装が多い。「腹8分目」という言葉もある。結果、食べすぎが抑制されていると思われます。

 アメリカ人の食べる量は半端じゃありません。スタバのドリンクはショートではなくトールが最小サイズだし、日本ではなかなかお目にかからないベンティサイズのフラペチーノをすすっている人もよく見ます。冬でも。レストランのレビューには「量が少ないから星ひとつ」なんて低評価がよくあるし、スーパーの牛乳は1ガロン(3.8リットル)が通常サイズだし、パンの通常サイズは1包装あたり680グラムほどあります(日本は400グラムくらい)。誤解を恐れずものすごく大雑把に言うと、アメリカの食べ物は日本の2倍くらいあるのです。人の大きさが倍になってもおかしくありません。

 加えて、食事時の飲み物のチョイスも大きな要因です。アメリカ人はとにかく、ソーダ(甘い炭酸の清涼飲料水)が好き。どんな食べ物も甘い炭酸飲料水で飲み下します。アメリカの肥満率の高さはソーダにありというのはお上も承知で、都市によってはソーダ類に税金がかけられていますが、それも元々肥満率が低めなサンフランシスコやデンバー、シアトルといった一部の都会だけです。私が住んでいたアメリカ南部の人などはソーダ類に目がなく、レストランやダイナーで甘くない飲み物を頼もうと思うと水しか選択肢がありませんでした。あの時は日本のお茶文化が恋しかった。

 そんなわけで、アメリカと同じようなサイズ感覚で食べ歩き、炭酸飲料を飲み、旅行中という高揚感もあって様々な食べ物飲み物に挑戦した義母は、まったく日本食のダイエット効果を得られないまま帰っていったのでした。私も人のことは言えません。何しろ季節は、食欲の秋。ぶどうに栗、かぼちゃ、さつまいも、おいしくてお腹まわりに溜まりそうな食べ物が目白押しです。瞬きしていると、あっという間に市場から消えてしまう儚い食材の数々。とにかくこの短い旬を謳歌しないと! という期間限定の味覚の豊かさも、日本でなかなか痩せられない理由のひとつです。

〇大井美紗子(おおい・みさこ)

ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

AERAオンライン限定記事

著者プロフィールを見る
大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

大井美紗子の記事一覧はこちら