北海道浦幌町は太平洋に面した人口5千人余の農業と漁業の町である。陸上競技の指導者もいないこの町の高校から竹島克己(順天堂大学、全日本インカレ30キロロードレース優勝)、大越正禅(駒沢大学、箱根駅伝5区区間2位)、川崎信介(東海大学、栃木国体3000メートル障害4位)という、全国トップレベルのランナーが昭和50年代に立て続けに現れ、陸上界を驚かせた。
本書は、北海道の高校教諭でノンフィクション作家でもある著者が、北海道出身の4人の箱根駅伝選手を通して「浦幌の奇跡」の秘密を解き明かした本だ。原動力は、今、浦幌町で僧侶を務める大越だった。中学3年生のときに長距離走の世界的練習方法であるリディアード方式を自分で研究し、月間600キロ近い距離の練習をこなして頭角を現す。刺激を受けた2学年上の竹島、1学年下の川崎らは、さらに独自の工夫で力を伸ばしていく。
少しの素質があれば、誰でも工夫と努力で日本一を狙えることを本書は教えてくれる。私は箱根駅伝に2度出場したが、努力が足りなかったことを思い知らされた。
※週刊朝日 2015年5月22日号