8月30日、アメリカ大手配信サービス、ネットフリックスからドキュメンタリー作品「ハート・オブ・インビクタス―負傷戦士と不屈の魂―」が公開された。5話構成で、1話の長さはいずれも1時間前後。児童虐待、自殺などを扱い、「16歳以上」と年齢制限も示される。
舞台は2022年の第5回インビクタスゲームである。戦争で重傷を負い精神的ダメージを受けた退役軍人らが、オランダ・ハーグで車いすラグビー、アーチェリーなどに挑戦する。ウクライナ、イギリス、韓国などの選手に密着、トレーニングに励み、当日は死力を尽くし、また故国に帰ってからの日々を追う。彼らはゲームへの参加を通じて希望を見いだし、家族との絆を取り戻す。イギリス紙「タイムズ」「ガーディアン」は星四つをつけるなど、評価は高い。
エグゼグティブプロデューサー、ジョアンナ・ナタセガラ氏はイギリスの映画監督・プロデューサーで、米アカデミー賞短編ドキュメンタリー賞を2016年に受賞した。ロンドンの大学院で人権プログラムを学んだ彼女は、今後のさらなる活躍が期待される。
インビクタスゲームは、ヘンリー王子(38)による創設だ。ただ、ヒントを得たのはアメリカ国防総省主催で2010年から始まった退役軍人のスポーツ大会「ウォリアー・ゲームズ」である。アメリカ国内で行われていたが、2013年イギリス軍の元兵士らが初めて参加した。同行した王子は、ウォリアー・ゲームズの「国際版」を英王室などのサポートを得て、「インビクタスゲーム」として立ち上げた。第1回は2014年ロンドン大会だった。ただ、今回、王子は「軍用機の中で移送される軍人たちを目のあたりにして思いついた」と胸をはる。単なる思い違いか、意図的な虚偽か、判断に苦しむ声が上がる。
退役軍人らの人間ドラマに対する評価は低くないが、台無しにしたのはヘンリー王子自身と言われる。作品の中で時々顔を出す王子は、またしても「かわいそうな自分」を語る。王子が12歳の時にダイアナ元妃が亡くなったが、王室からのサポートがなかったと言う。
そうだろうか。故エリザベス女王は当時バルモラル城で避暑中だったが、突然母を亡くした2人の孫を懸命に慰めた。チャールズ皇太子(当時)は、翌9月に予定されていたウェールズでの公務を「2人のそばにいてやりたい」と取りやめた。10月には南アフリカやレソトなどを公式訪問したが、ヘンリー王子を連れていった。王子の同行は初めてだ。ウィリアム王子(当時、41)は学校の授業と重なるとして断ったが、ヘンリー王子は地元の小学校を訪問し民族舞踊を楽しんでいる。当時ヘンリー王子は「年齢よりも幼い」とメディアなどから言われたが、父の精一杯の心遣いに笑顔がはじけた。王子はこうしたことを覚えていないのだろうか。