作家・画家の大宮エリーさんの連載「東大ふたり同窓会」。東大卒を隠して生きてきたという大宮さんが、同窓生と語り合い、東大ってなんぼのもんかと考えます。今回はピアニスト・角野隼斗さんの演奏会に行った大宮さんが、演出のこだわりを聞きました。
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大宮:この前の角野さんのコンサート(3月10日・東京オペラシティ)は素晴らしかったです。もう、不覚にも号泣、うーって。
角野:ありがとうございます。
大宮:演出も素晴らしかったですね。
角野:それはいろいろ凝って。
大宮:ちっちゃなピアノが出てきたじゃないですか。
角野:アップライトピアノですね。
大宮:あれがやっぱりいい。
角野:そう、いいんですよ!
大宮:懐かしい音がする。コロナもあってみんな元気そうに見えてもいろいろ思うものがあるけど、それがパーッと浄化されてくような、心の窓がバンと開くような感じがあった。「主よ、人の望みの喜びよ」とか、教会にいるような感じがして。
角野:バッハは宗教と切っても切り離せないですから。それで、アップライトともすごく相性がいいな、と。
大宮:ああ、そうかそうか。
角野:なんかこう、祈りに近いというか。グランドピアノのように、たくさんのお客さんの前でドラマチックに弾くというのとは全く違う、自分とピアノだけが向き合っている閉じた内的な空間というか。
大宮:だからかな。本当に祈りを感じたし。最後はジャーッて、ほら。
角野:パイプオルガン?
大宮:そう。いや、もう祈りのクライマックスみたいなね。
角野:あのとき初めて人前で弾きました、オルガンを。
大宮:初めてにしては暴れっぷりがすごかった(笑)。
角野:暴れましたね(笑)。
大宮:演出に数字を利用してたじゃないですか。
角野:ああ、はい。電球ですね。即興も弾くから、聴いてる側が、いま何番目の曲を弾いてるか分かんなくなるだろうなって思って。YouTubeはテロップで表示できますけど、コンサートではできない。ナンバーをそのまま出すのもかっこ悪いし。