AERA 2023年9月11日号より

 こう話すのは、岡山大学教授(公衆衛生学)の伊藤武彦さん。総務省の発表でも、救急搬送された人のうち65歳以上の高齢者が約57%を占める。

「死に至る例もありますが、日々暑い環境で過ごすことによる脱水で血が固まりやすくなり、血栓が脳に飛んで脳梗塞を起こすといった例も多いです。この猛暑で室内を適切な温度に下げるのはエアコンがないと難しいですが、一人暮らしだったり、認知機能が低下したりでエアコンを正しく使えず、リスクが増すケースも少なくありません」

生活保護に夏季加算を

 高齢者の熱中症では、別の課題も出てきている。生活困窮者支援に取り組むNPO法人「ほっとプラス」理事の藤田孝典さんは、年金暮らしの高齢者世帯について、「まさに毎日のように『エアコンどうしようか問題』が頻発する現場だ」と話す。

「少ない年金で生活をしている人の中には、電気代や物価高を気にしてエアコンのスイッチを入れなかったり、壊れたまま修理していなかったりという人が多い。『熱中症で搬送された』という家族などからの相談が6月末から9月は頻繁にあります」

 厚生労働省は一定の条件を満たす生活保護世帯に対し、上限6万2千円までエアコン購入費の支給を認めている。しかし、支給を認めるかどうかの実務を担う自治体の判断にはばらつきもあると藤田さんは言う。

「生活保護世帯の人たちは受給に対し控えめで、申し訳ない気持ちがある。救急搬送されてやっと、『じゃあ申請を』となりがち。さらなる周知が必要です。また、生活保護制度では暖房費の必要性から冬場に『冬季加算』がありますが、現状で夏場のエアコンを控える人に使用を促す意味で、『夏季加算』も絶対に必要だと思います」

 この夏の異常な暑さは、もはや社会の仕組みを変えないと「命が守れない時代」が来ていることを突き付けている。(編集部・小長光哲郎)

AERA 2023年9月11日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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