エッセイスト 小島慶子
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 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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国連ビジネスと人権の作業部会は7月24日~8月4日にかけて訪日調査を行い、ステートメントを発表した(撮影/写真映像部・佐藤創紀)

 ジャニーズ事務所性加害事件は極めて悪質で深刻なものです。引き続き詳細に報じることが不可欠ですが、これを一事務所だけの問題として矮小化(わいしょうか)するべきではありません。問われているのは、エンターテインメント業界とメディア企業が、芸能界で働く人の人権を軽視してきたという極めて根深い構造的な問題です。それを強く指摘したのは、今年7月に来日して調査を行った国連ビジネスと人権の作業部会です。8月に出されたステートメントで「この業界の搾取的な労働条件は、労働者に対する労働法による保護や、ハラスメントの明確な法的定義の欠如と相まって、性的な暴力やハラスメントを不問に付す文化を作り出しています」と業界全体の人権軽視を問題視。女性記者の性虐待被害に放送局が一切の救済措置を講じないという事例や、アニメ業界での極度の長時間労働や不正な下請け関係、不当な契約についても言及。そうした事例の一つとしてジャニーズ事務所の問題にも言及しています。国連の作業部会は、ジャニーズ事務所だけを問題視しているのではないのです。ステートメントでは「あらゆるメディア・エンターテインメント企業が救済へのアクセスに便宜を図り、正当かつ透明な苦情処理メカニズムを確保するとともに、調査について明快かつ予測可能な時間軸を設けなければなりません」と厳しく指摘しました。メディア企業が「過去を反省し、勇気を出して報じ続ける」のなら、ジャニーズ問題のみではなく、放送局と芸能事務所が出演者やフリーランスのスタッフたちの人権を軽んじてきた実態と、構造的な問題をこそ掘り下げて報じるべきです。と、ある制作者に提言したら、「他に報じなくてはならないことがたくさんあるので」とかわされました。この体質を速やかに改め、人権デューデリジェンスの理解と実施を徹底してほしいです。

◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。

AERA 2023年9月11日号