たとえ天皇が滞在する建物であっても、「必要最低限の改修」しか行うことができない。その状況は長い間、変わってないようだ。

 多賀さんによれば、当時の鎌倉節・宮内庁長官も、御用邸の老朽化とその補修費用には頭を悩ませていたようだ。侍従たちに、こんな内容のことをこぼしていたという。

「陛下が那須の附属邸にお泊りになる。御用邸には、虫がたくさんいるので網戸を取り替えたかったが、その費用を確保するのが非常に難しい。やむを得ず大蔵省(現・財務省)とやり取りした……」

 大蔵省に、宮内庁長官自らが交渉を行わざるをえなかった、といった口ぶりだったという。

「天皇、皇后両陛下が滞在なさる御用邸で、網戸を取り換えるために長官自らが介入しなればならないとは、なんともお気の毒だと感じました」(多賀さん)
 

 多賀さんによると、自然が豊かな場所だけに、虫も悩みの種。虫が苦手な女官は、天井からハエ取り用の粘着リボンを吊るしていたという。

「当時もいまもあまり変わらないと思いますが、滞在するのに快適かといわれれば、決してそうではありませんでした。英国や欧州の王室の別荘といえば、豪奢なお城や建物であることが多い。それに比べると、わが日本の天皇や皇后、皇位継承者である東宮ご一家などが滞在される御用邸は、ずいぶん質素なものだと驚いた記憶があります」

 と、多賀さんは振り返った。
 

 天皇ご一家は、那須の御用邸で快適な日常を過ごされているのだろうか。4年ぶりにご一家を迎えた地元の住民たちは、心配とともに見守っている。

(AERA dot.編集部・永井貴子)

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