次に、S氏が情報公開請求をやめるよう、武田氏の名前を出して「圧力」をかけたうえ、「適切に処理している」と情報公開請求に正面から答えようとしない「折衷案」を提示したり、中願寺氏に情報源を明かすように迫ったりしたことだ。
S氏については、国会議員秘書という優越的な立場を利用した強要罪などに問われる可能性がある。
そして、中願寺氏も指摘していたが、武田氏は当時の菅義偉内閣の総務大臣を務めていて、情報公開制度の所管官庁のトップだったことだ。
秘書のS氏が「(大臣が)気にしています」「なかったことにしてほしいと」などと言っていたのが事実であれば、武田氏は請求者の情報が漏れていることを知りながら請求の取り下げを求めたことになる。情報公開制度の根幹を揺るがすことであり、政治責任が問われるだろう。
中願寺氏は、今年の8月1日に田川市役所を訪れ、現在の村上卓哉市長に、S氏との電話の録音データなどを提供し、調査を依頼した。村上市長は取材に対し、
「録音の内容から、情報公開請求の内容が漏れた可能性がある。情報公開の請求先はうちと大任町なので、調査を指示している」
と述べた。
大任町「適切に対応しています」
一方、大任町にこの件について聞くと、
「適切に対応しています。調査はしません」
と回答した。
武田氏の事務所にも質問したが、期限までに回答はなかった。
中願寺氏は、
「個人で解明するにも限界があるので、近く刑事告訴をすべく弁護士と調整している」
と話す。
情報公開制度に詳しい上脇博之神戸学院大学教授はこう指摘する。
「情報公開請求の内容が国会議員に漏れてしまう、それも請求者の名前や連絡先までも含まれた情報が漏れているのは大問題だ。その上、国会議員秘書が圧力をかけているというのは、情報公開制度の信用性の根幹にかかわる。刑事事件になってもおかしくない。本来、国会議員、地方議員らはどんどん情報公開をやってくださいと進めて、政治の透明度を高める立場。とんでもないことだ」
(AERA dot.編集部・今西憲之)