NAS電池は絶対に、地球温暖化防止のため再生可能エネルギーの普及に切り札となる。この夢は信念となり、コスト減少の策を柔軟な発想で進める(撮影/狩野喜彦)
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 日本を代表する企業や組織のトップで活躍する人たちが歩んできた道のり、ビジネスパーソンとしての「源流」を探ります。AERA2023年8月28日号より。

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 2011年9月21日の朝、名古屋市瑞穂区の本社で会議をしていたときだ。衝撃の知らせが、飛び込んできた。茨城県常総市の三菱マテリアル筑波製作所へ納めていたナトリウム硫黄電池(NAS電池)が、炎上している、との急報だ。

「電気はためられない」という長年の常識を覆し、NAS電池はナトリウムイオンと硫黄の化学反応で電気をため、太陽光発電や風力発電など地域で起こした電気を無駄なく使い切る決め手になる、と期待される。東日本大震災で東京電力福島第一原子力発電所が被災・爆発し、地球温暖化防止のために脱・炭素の武器とされた原子力の利用に懸念があるなか、汚染の不安もない。課題は製造コストの高さだが、後輩たちと普及に「夢」をかけてきた。

 すぐに火災現場へ飛び、鎮火や被害の最小化に参加したい。強くそう思ったが、踏みとどまる。自分で消火したい一心で、硬直的になってはいけない。ぱっ、と思考を切り替える。父から受け継いだ柔軟性だ。電力事業本部のNAS事業部長を7年余り務め、3カ月前に常務執行役員にもなっていた。現場へいきたいのは山々でも、果たすべき役割は別にある。思い直し、部下3人を向かわせた。その代わり、すべての情報は自分に集めさせて、やるべきことの優先順位を決めていく。

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