「プール見学でみんなの姿を見ていると鬱になりそう。女子として生きたかったなっていうか。うらやましいんですよ」と、ぽてまりさんは話した
(写真:gettyimages)
この記事の写真をすべて見る

 SNSなどでトランスジェンダーへの差別や偏見を助長するような言説が氾濫するなか、メンタルを病む中高生の当事者たちが増え、「死にたい」と口にする子もいるという。子どもたちは大人以上に、社会が求める男女の基準に過度に適応しようと、追い込まれている。AERA 2023年8月28日号より。

【図】全国調査と比べ10代の孤独感は何倍?

*  *  *

「全日制と通信制の高校、どちらが青春できますか?」

 チャットを使ったトランスジェンダー(以下、トランス)の自助グループにこんな質問が流れた。書き込んだのは、進学する高校選択に悩むぽてまりさん、中学3年生だ。出生時に割り当てられた性別が男性、性自認が女性のトランス女性に該当する。

 一般には成績を基準に高校を選ぶ生徒が多いが、トランスの中学生にとって重要なのは「男女分け」をどこまで避けられる学校かという点だ。現状の全日制の高校は制服、体育の授業、班活動など男女の区分が意外に多い。そのため、トランスは定時制や通信制に進学する生徒の割合が高くなる。

 グループでは複数の当事者からコメントが寄せられた。

「定時制や通信制のほうが自由度は高いですが一長一短かな。昼間の定時制は私服登校が可能で、授業や部活動は全日制と近い形だから、おすすめかも」

「私服登校はいいね。(自分が高校生だった)当時は配慮のある学校なんてなかった。男子制服を着たくなさすぎて、せめてもの抵抗でジャージ登校」

「私は親戚が教育委員会に掛け合ってくれてずっと女子制服」

不要な罪悪感を抱く

 中学生が迷っているのを察した別の当事者が声をかける。

「どちらを選んでも間違いじゃないですからね。後悔の少なそうなほうを選んでほしいな」

 このグループを最初に立ち上げたのは、現在高校3年生の伊織さんだ。コロナで全国一斉休校となった2020年春、時間をもてあました中高生らがオンライン上にグループをいくつも生みだした。学校が再開すると利用者は減り、多くの場は廃れた。一時は伊織さんも離れていたが、偶然集まったメンバーにグループはうまく引き継がれ、今もにぎわう。多い日は発言数が千件を超えることもある。

次のページ