AERA 2023年8月28日号より

 伊織さんは「ここはいろんな人がいるのがいい」と言う。

「中高生だけの場だと何か発言しても『私も』『そうだよねー』で話が終わるんです。でもここは小学生から親世代まで年齢層が広いし、手術や戸籍変更まで済ませた人もいれば、戸籍はそのままの人も、Xジェンダーの人もいる。だからいろんな具体的な話を聞けるし、議論がおかしな方向に進んでも誰かが軌道修正してくれます」

 昨今、ちまたではトランスを脅かす言説が目につく。「トランスの権利を認めると女風呂に男が入れるようになるから危険だ」といった主張だが、危険なのは性犯罪者でありトランスではない。だが、当事者らは自分たちが危険視されていると感じ、不要な罪悪感を抱きがちだ。

「当事者は自分の身体に嫌悪感を抱いていることが多いので、公衆浴場に入り人前で裸をさらすことは避けたがる傾向にある。そういう当事者の感覚を無視して、女風呂に入る権利を求めているかのような議論が独り歩きしていることに怒りを覚えます」

 こう話すのは現在のグループ管理人の代表、かよさん(40代)だ。今年の5、6月はメンタルを病む中高生が特に増え、深刻な子には大人のメンバーが個別に話を聞いて対応をした。

「とにかく『死にたい、消えたい』って声が増えたんです。若い子たちは社会が求める規範に過度に適応しようとするから苦しくなってしまうんですね」

学校ではトイレを我慢

 いわゆる「トイレ問題」も悩みを抱える中高生が多い。今年7月、経済産業省のトランスの職員が職場のトイレの使用制限を違法として訴えた裁判で、最高裁が原告の訴えを認める判決を出した際は、性別移行中のトランスがどちらのトイレを利用すればいいか、グループでも繰り返し議論になった。当事者同士でもいろんな考えがあり話はいつもループする。中高生たちは学校のトイレを使う際に困っていることを打ち明ける。

「友達に『戸籍も変わっていないのに男子トイレに入るのはダメだ』って言われて悩んでる」

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