その思いをくまれたのか、陛下は大統領の前で即興でスピーチをすることになった際、過去の戦争には触れずに、「今後、両国の若い人々の交流により、両国間の友好親善が一層発展することを心から願っております」などとお話しされました。外務省や官邸とのすり合わせをしていない、陛下の率直なお気持ちから出たお言葉だと思いますが、未来志向というものを感じさせる内容でした。

 陛下は、昭和天皇から直接戦争の話を聞いた経験をもつ最後の天皇になるでしょうが、戦争の実体験者ではありません。世代の移り変わりとともに、国民の側も戦争への向き合い方は少しずつ変わってきます。そんな時代において、過去の反省をきちんと未来につなげるために、天皇として何をなすべきなのか。陛下は、これからも国民の価値観の変化を感じ取りながら、時代に合った天皇の姿を模索し続けていかれることでしょう。

(聞き手・構成/AERA dot.編集部・大谷百合絵)

●山下晋司(やました・しんじ)

1956年、大阪府生まれ。宮内庁で23年間勤務し、マスコミ対応などを担当した。2001年に退職後、現在は皇室解説者として活動しており、BSジャパン・テレビ東京「皇室の窓スペシャル」の監修も務める。

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大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

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