いま時代を読み解くキーワードは「反知性主義」だ。なぜネトウヨ的なことばが蔓延するのか。なぜ安倍晋三が首相なのか。こうした素朴な疑問は、反知性主義について考えることで解ける。
『日本の反知性主義』は内田樹が依頼した九人と内田自身による論考からなる評論集だ。9人の顔ぶれはさまざま。作家の赤坂真理や高橋源一郎もいれば、精神科医の名越康文や映画作家の想田和弘もいる。最年長は哲学者の鷲田清一で、最年少は政治学者の白井聡。つまり、いろんな人がいろんな立場で反知性主義について考える。
 反知性主義は、たんなる無知や無教養とは違う。もっと積極的なもので、知性に対する反発、いや攻撃的態度だ。反知性主義的な人はそれなりに知識も教養もある。だけど彼らは「考える」ということをしない。とくに「自分で考える」ということを。
 高橋源一郎や想田和弘、小田嶋隆は、反知性主義について語ることのむずかしさを指摘している。誰かに反知性主義者の烙印を押すことは、反知性主義者たちが別の誰かを「反日」「売国奴」「サヨク」と呼ぶことと同じだからだ。反知性主義者たちが「反日」といって思考停止してしまうように、安倍晋三やその支持者たちを反知性主義者だと非難するだけでは思考停止してしまう。内田は『アメリカの反知性主義』の著者、ホーフスタッターの言葉を引いて言う。「知識人自身がしばしば最悪の反知性主義者としてふるまう」と。
 反知性主義に陥らないためにはどうすればいいのか。想田和弘の文章が参考になる。映画作家の想田はドキュメント番組の製作で、効率と予定調和を求められる現実に直面する。試行錯誤をすべてムダと考え、あらかじめ決めた結論に向けて一直線に進んでいく思考。それが反知性主義だ。
 反知性主義に抗するためには、ああでもなくこうでもなくと考え続け、辛抱強く悩み、思い、迷い続けていくしかない。

週刊朝日 2015年4月17日号