「パソコンに例えれば、ウイルス対策ソフトのない状態でインターネットにつながっている状態と変わりません。あらゆる犯罪組織の脅威に対して、なすすべなし、という状態だったと言えます。油断すれば選手は反社会的なダークサイドに陥ります。犯罪集団は彼らの社会的な未熟さをよく知っていますから。
日大は不祥事が起こってから頭を抱えるのではなく、日ごろから選手たちが健全な状態を保てるように対策をとっておくべきでした」
その場しのぎの再発防止策
これまでスポーツ界では、事件があるたびに再発防止策がとられてきた。
「しかし、その多くが、再発防止を行った、というためのアリバイづくり、『その場しのぎの念仏』にすぎませんでした」
と、吉田さんは言い切る。
従来型の再発防止策は「法律と罰」に依存したもので、その効果が疑問視されてきた。つまり、法律を破れば罰を受ける。だから罪を犯すな、というものだ。
「再発防止の講習を受ければ、一時的に効果はあるかもしれませんが、長続きしません。要するに、選手自らが正しい人生を歩んでいきたいという意識を持たないかぎり、不祥事は減りません」
名門・米ワシントン大学でアメフトのコーチを務めた経験を持つ吉田さんによれば、日大に提供したプログラムは「健全な状態でスポーツ活動や社会生活を送りましょう」というもので、米国大学のアスリートであれば、誰でもごく普通に受けるものだという。
米国では裏社会がアスリートを、賭博行為や禁止薬物使用などの犯罪に巻き込んでいこうとする。だから大学は学生たちに、社会のなかでどうすれば正しい生き方を実践できるのか、プログラムや機会をきちんと提供しているという。
ところが、日本のスポーツ界でそのような取り組みは、ほとんど行われてこなかった。
「スポーツに打ち込めば健全な精神が育まれる、というのは指導者の思い込みにすぎません。閉鎖された空間でアメフト漬けになっているような生活では、それ以外のことはわからない。大麻や覚醒剤に手を出すことが悪いことだと知っていても、友人に誘われると手を出してしまう。人間的にまだまだ未熟なわけですから。